さて、日本で銃猟ビギナーが運用できる装薬銃はライフルではなく散弾銃であります。散弾銃は元々、近距離…せいぜい50メートル以内、実用的には30メートル前後までの動く標的を撃つための銃で、小鳥撃ちなら仁丹粒程度、大物撃ちならパチンコ玉より少し小さいくらいの弾を何粒もまとめて射出するようになっております。しかしながら、大物猟のときにはバラ弾が向かない状況もありまして、そういう時は鉛1個の塊を射出するスラッグという弾を使います。
先のエントリーで書きました通り、私はバックショットを使うときでも、かなりパターン(拡散範囲)が狭くなるようなセッティングをしておりまして、実を言えばそれで獲物に当たるならスラッグでも当たる、というような状態であります。
私が使用してみた実感として、雑木や藪の多い猟場では、獲物との接触距離が近いにもかかわらず、藪越しの射撃をするためにバックショットは小枝にはじかれて弾道が変わりやすく、スラッグの方が信頼性が高いとですし、杉木立の、比較的見通しの利く山では少しでも有効射程が長い方が有利ですから、これまたスラッグに分があるような気がするのです。こうなると、あまり9粒、6粒のバックショットの必要性が感じられなくなってきます。実際に、スラッグしか使わないというハンターもたくさんいるのです。
先の週末、派手に降雪のあった豊岡でシカ狩りをしてきました。この時は犬を使わない忍び猟に挑戦するつもりだったので、私もスラッグ弾だけを持って猟場に入りました。
しかし、自分の足で山を歩いてみると、播州の猟場とあまりにも環境が違うので、驚いてしまいました。雪で地面が白くなり、木々も葉を落として見通しが極端に良いため、普段は発見できない、300メートルくらい離れたシカでも「見えて」しまうのです。
さらに、降雪の後の晴れ間は空気が澄んでいるし、雪原にたたずむシカは背景とコントラストがはっきりしているので、実際の距離よりもかなり近く感じるし、逆に雪がまさに降っている間は見通しが悪いため実際よりも遠く感じるし、とにかく距離感が狂いっぱなしでした。
猟場について早々、雪の山肌に立っているシカを20メートルくらいの至近距離で発見して、こんなもん畑の柿の木にとまっているカラスを撃つみたいなもんだなぁ、楽勝! と思って頸を狙って発砲したら見事に失中。いちおう跡見をしにシカがいた場所に上って、自分が撃った地点を見下ろすと、実際には40メートル強の距離があったようです。腕の良い人なら外さない距離ですが、私の腕では急角度のついた40メートルの距離で頸を狙うのは、ちょっと無理。仮定の話をしても仕方ないのですが、いつも通りのバックショット+28インチ半絞りの組み合わせで射撃していたら獲れていたかもしれません。
また、雪の積もった谷にカンジキを履いて踏み入って、シカの足跡を追い、スラッグで狙えるはずの50メートル程度の距離まで寄ったものの、これまた失中。この時は体力任せに歩き続け、呼吸は乱れて指は強張って、まあ精密射撃ができる状況ではありませんでした。これまたバックショットを撃っていればなんとかなっていたように思います。慣れない猟場ではバックショットのファジーな部分が有利に働くこともあるようです。
もう一つ、バックショットが有効な状況は護身用ですね。猟場への行き帰り、藪の横を通る際など、イノシシが潜んでいるのではないか…と言うときに、至近距離の向かい矢ではスラッグよりもバックショットの方が有効でしょう。特に、スラッグばかりを持っていると、猟場で撃ちつくしてしまう可能性が高いのですが、バックショットを1~2発、護身用と割り切って持っていれば、丸腰で猟場に立つ不安からも解消されます。いろいろな状況を経験しないと、モノの値打ちと言うのは判らんもんですね。