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2010/10/25

狩猟と戦闘の違い

Tweet ThisSend to Facebook | by kanri
猟友会員の高齢化、人数減少による有害捕獲の限界が問題化してきまして、自衛隊に有害獣を狩らせろという議論が現実味を帯びてきました。
 
 事実、旧軍の歩兵第70連隊(在篠山)など、高名な狩場に駐屯した部隊は演習として巻き狩りを実施し、猟果は食料としていたそうです。ただし、隊史を参照すると「何頭獲れた」ということまでは言及されていなかったりして、当時の職業猟師と比べてどの程度の猟果があったのかちょっと疑問なのですが。もちろん軍の中には猟師出身者もいたはずなので、軍の演習といっても本格的な巻き狩りであっただろうことは想像に難くありません。
 
 さて、自衛隊がシカやイノシシを狩るとして、法制度はともかく、装備や戦術面でどのような問題が出てくるか、考えてみました。話が長いので連載とします。
 
1. 現用の小銃弾を猟用として使用できるのか。
  現代の正規戦においては小銃で敵兵を完全に殺すよりも、重傷を負わせて戦線離脱させた上で救助・治療の手間を敵軍に負担させた方が戦術的に有利で人道的(?)だとして、致死性の低い小銃弾が流行しています。弾を受けたときに鉛中毒になるのを防ぐ意味でも、銅系の合金で被覆された弾頭(フルメタルジャケット)が標準です。フルメタルという勇ましい響きの割りに致死性は低いのです。
 一方、狩猟では確実に獲物を即死せしめるため、致死性の高い弾頭を使っています。弾頭の先端に細工がしてあって、獲物に当たるとマッシュルーム状に潰れて変形し、傷口を大きくすることで神経や血管を大きく断裂させ、運動能力低下や失血を促すのです。コワいですね。
 
 狩猟法においては小口径(5.9mm以下)のライフルの使用が禁止されていることもあって、本州の大物猟では7.62mm(.308winチェスター、NATOの7.62mmと互換。30-06スプリングフィールド、米軍旧規格)あるいは7mm(.270ウィンチェスター)が一般的ですが、現在の陸自の正式小銃は口径5.56mmの89式です。NATO標準の5.56mm実包は .223レミントン実包が基となっていますが、.223レミントンは米国においても小動物狩猟用のタマであり、シカ相手には非力であるとされています。数字だけあげつらっても仕方ないのですが、シカ撃ちで一般的な実包の初活力はおおむね3,500ジュール。NATO5.56mmの初活力は1,800ジュール以下です。
 もっとも、私のような猟暦の浅い者が使うショットガンスラッグは初活力こそ大きいものの、急速に減速するため50メートル先では1,500ジュール程度まで運動エネルギーが下がっています。それでもシカは死ぬのだから、89式でも頭部や頚部に入れば十分に効くでしょう。
 贅沢を言えば、7.62mmの64式を引っ張り出してきて、狩猟用の弾頭を支給すれば基本的には狩猟と同じ仕様の弾を撃てます。
 あと、ちょっと反則かなーとは思いますが、フルオートで1頭に5,6発も叩き込めば5.56mmだろうがフルメタルだろうが動きは止められるでしょうね。私はそんな狩り方はやれといわれてもやりたくありませんが、とにかく「害獣」の数を減らさねばならないのなら仕方がないかもしれません。

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