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2011/03/02

善も無く、悪も無く

Tweet ThisSend to Facebook | by kanri
ちょっと前の話ですが、姫路市北部の某地区で、違法なくくり罠がある、との通報がありました。
 
 くくり罠というのは、ピンポイントで獲物の脚を輪に捕らえなければならないので、けっこうな熟練が必要です。しかも、クマの錯誤捕獲を防ぐという名目で、直径12cmを超えると違法。また、ワイヤーが千切れて負傷獣をつくらないために、ワイヤーの直径4mm未満も違法なのです。
 
 その他もろもろ、罠には細かい規制が多いのですが、ベテランに言わせればすべての規制を遵守すると、獲れるものも獲れないほど厳しい…。逆に言えば、違法を承知でリスクの高い仕掛けをかけるのが当たり前になっている事態なのです。
 
 今回通報があった罠は、捕獲実施者の名札が直接添付されておらず、近くにあるのみ。ワイヤーの直径が4mmにわずかに足りない、という軽微な違反でした。
 
 ですが、違反とはならないものの、罠の設置場所が小学校の通学路沿いで、脚をとられて暴れるメス鹿が、もうすぐ小学生が通るであろう道路から、よく見えるところにあるのです。
 
 違反云々ではなくて、脚をとられてもがく鹿を見るのは気分が良いものではありません。容疑者というと物々しいですが、罠をかけたであろうハンターを電話で呼び出しますが、連絡が付きません。
 
 通報者に、農業被害を起こしているであろう鹿だけれども、違法の罠に捕まって苦しんでいるのは忍びない。開放してよいですか、と尋ねると、好きにしてくれとの事。一応、得物は持ってきていたので撲殺して放置するという選択肢もあったのですが、軽微とはいえ違反を追認することになりかねないし、自分で処理するのも億劫だし、角が無いメスなので放獣作業も容易なので、逃がしてやることにしました。

 ずいずいと鹿に近寄り、ワイヤーにかまれている右の前脚を抱えます。鹿もなんかされると思ったんでしょうね。ひとしきり暴れた後、私にかみつこうとする。セーターの上からウィンドブレーカーを着ているから、痛くは無いけれども服に穴をあけられると困る。
「コラ、大人しくせんか」
遠慮なく拳で頭を殴ります。ヘタに暴れて脚の傷を広げるよりは、タンコブのほうがマシでしょう。

 片手で鹿を押さえ、もう片手で罠の輪を緩める…くくり罠の輪締めはなかなか緩まず、場合によってはワイヤーや、獲物の脚を切断することもあるのですから、なかなかの作業です。今回はあまり鹿が暴れていなかったためか、あまりきつく絞まっておらず、なんとか解放することが出来ました。鹿の脚も健在で、皮膚に血がにじむ程度の軽症で済んだようです。

面白いもので、せっかく逃がしてやったのに、鹿は立ち尽くしたまま逃げようとしない。罠をあらためて調べる私をジーと見ている。気まずくなった私が
「ほれ、どこでも行け。にげられるやろ」
言うと、ようやく2,3歩後ずさりして、方向を変え、トコトコと茂みの中に消えていきました。

「あれ、いつも夕方にこの辺にでてくるやつですわ」
と、通報者。銃で撃たれない地域の鹿は、人馴れというか、人を舐めて近づいて来やすいようで、その割には家畜化も出来ない厄介な動物です。本当はそんな個体は殺してしまいたいんですが…職務上、有害捕獲の青許可も持ってるから、放獣と同時に射殺というやり方もあったんですが、それこそ周りで見てる人にどう思われるかわかりませんね。

  昨日書いたクマの話にも通じるんですが、野生動物の被害というのは、結局、人間と動物が共に生活を犯さない付き合いが出来れば解消されるのであって、それは勿論理想論なのですが、兵庫県の現実が何故理想と乖離しているのかは、ハンターのみならずすべての関係者が考えるべきことだと思います。

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