猟に出て、鹿なりカモなりの獲物が手に入ったときは、たいてい解体作業をします。おおむね食べるため。もし何かの事情で食べられないとしても、きれいに埋葬するため。
また、獲物の体に刃を入れ、皮や肉や内臓を観察することで、獲物のことを深く知ることができます。シカの脚が何故強靭であるか。猪の背中がどれほど分厚く頑固であるか。鳥の骨が軽く、丈夫であること。
まぁー野生鳥獣の身体は、見れば見るほど良く出来ていますね。それに引き換え、衣服と道具に甘やかされた人間の身体は…皮膚は柔らかく、爪は丸く、天性の武器みたいなものが見当たらない。それゆえに我々は、鉄砲とか刃物とかワイヤーを武器として野生動物に追いつくわけですが。
しかし、獲物との接近を繰り返すうちに、例えばシカ相手でも、猟野の地形を熟知し、自信を持って追跡すれば、機械に頼らず、人間の脚でシカを追い詰めることが出来るんじゃないかなーという気になってきました。四駆とかライフルを武器とするのではなく、頭と身体で獲物を追跡して、根負けさせることが出来るのではないか、と。
以前、ナショナルジオグラフィックでマサイ族の単独猟法を紹介していて、どないするかというと、一人の猟師が、弓矢を持って、延々とサバンナの中、一頭のキリンを追跡するのです。もちろんキリンのほうが脚も早いし、猟師が忍び寄ろうとしてもすぐに発見して逃げてしまうのですが、どうしても逃げ切るというか、撒くことはできない。灼熱の太陽の下、逃げに逃げても、休んでいるとふっと気が付いたときには視界の端に人間の姿がある。いくら逃げても影のようにつけてくる。やがて頭もぼうっとしてきて、もうどうでもよくなってへたばりこんだところで、ほんの5メートルほどの至近距離まで寄った猟師が頸を狙って一撃。その間5時間くらいだったかなぁ。
雪の中で動きの鈍くなった鹿と、100メートルほどの距離をたもったまま延々1時間追いかけっこをしてみたり、また、林業の古老が終戦後の食糧難の時代に、尾根を走り鹿の先回りをくり返し、最期は素手で鹿を押さえたという話を聞くにつけ、トップスピードや単純な持久力では鹿にかなわなくても、丸一日山を動く体力と、鹿を不利な地形に追い込む知識があれば、鹿に勝てるのだろう、という実感は深まります。
相手の体力を読んで、自分の有利な展開を探り、自信を持って追い詰める。極限を言えば、想像力で獲物を押さえ込む、と言うこと。おそらく、人間の最大の武器は、鉄でも火でもなく、アタマなのだろうと思います。